東海村の原子力関連広報施設の一つ、「アトムワールド」が今月末で休止されるという話を聞きつけて、雨の中をバイクでひとっ走りして「東海テラパーク」「原子力科学館」「アトムワールド」を見学してきた。
一応俺とこの地域の位置的な関わりを説明しておくと、現在運転休止中の東海第二原子力発電所から我がアパートまでは直線距離で10キロは無い程度の近さ。それから原子力発電所に対する仕事での直接的な関わりはないものの、放射線を扱う機器の応用製品に一時期関わっていたので右も左も何も分からない一般人では一応無い事を最初に記しておきたい。
最初にやって来たのはアパートから一番近くにある「日本原子力発電㈱ 東海テラパーク」。ここは運営会社の名前から分かるように東海第二原子力発電所の広報施設となっていて、冒頭の写真からも分かるように東海第二原子力発電所(手前側)・東海原子力発電所(奥側)の施設の同じ敷地内と呼んでしまっていいような場所にある。
そんな立地条件故、入り口で思いっ切り警備員の方に止められたりもするんだが…
「テラパークへ行きたいんです」とはっきり言いましょう。
主に原子力発電所の仕組み等を展示している施設なので、東海村の原子力発電所の歴史や燃料集合体の展示が目をひきます。
日本で最初の商業用原子力発電所である東海原子力発電所が営業運転を開始したのが1966年7月25日。その後1998年3月31日まで、今となっては出力僅か16万kWではあるが発電をし、今日を迎えている。
ここで一つ伝えたいのは、原子力発電所の廃炉作業というのは一朝一夕では終わらないという紛れもない事実。日本最初の商業用原子力発電所の廃炉作業(これも日本で最初)は今も続いていて、原子炉建屋の解体作業が始まるのは2014年からの予定となっている。だから冒頭の写真には東海原子力発電所が今日も変わらず写っている訳だ。最初のノウハウ蓄積という意味ももちろんあろうが、建屋の解体開始までには運転停止から実に16年以上を必要としている。
東海原子力発電所の説明を読んでいて、実は「えっ!?」と思った事がある。何と減速材に「黒鉛」を使った原子炉だったという事。
確か黒鉛を減速材に使った原子炉ってのはコントロールが難しく、制御棒を挿入すると逆に出力が上がってしまう正フィードバックが掛かる状態(回路屋さん的には発振みたいな状態)になり得るんでは無かったっけか?ロシアにしか無い物だと勝手に思ってた。
こちらはその東海原子力発電所の燃料棒の模型。六角形的な物が黒鉛製の減速材で、その真ん中にあるのが燃料棒。
こちらは今現在一般的な軽水炉(要するに減速材として水を使ってる)に使われている燃料集合体のカットモデル。ウラン燃料を固めたペレットをジルコニウムの合金で覆っている。福島の原子力発電所で起きた水素爆発は、このジルコニウム合金(ジルカロイ)が高温にさらされた事によって発生した水素によって引き起こされた。wikiからコードごとリスペクトしてきた化学反応式は以下の通り。
Zr +2H2O → ZrO2 + 2H2
何だか久々に、TeXで数式を書いていた学生時代を思い出した。あくまでもリスペクトしただけなんだが…(汗)
何でこんな物を被覆管に使ったのかという意見もあるようだが…臨界を維持できる中性子吸収量と耐熱性その他を考慮した結果がこの物質だったんだと思う。純粋なジルコニウムの融点は1852℃だそうだが、スズその他を添加したジルカロイが水と反応し始める温度はそれよりも低いのは確かだろう。ただ、予期していない水素発生までの温度に至っている時点でまともに制御できていなかったというのも事実なんだろうな。ま、あんまり詳しくないのでこの話はこの辺で。
こちらは空間放射線の放射線量を日々測定しているモニタリングポストのカットモデル。表示されている値にビビらないで欲しい。たまたま反射してしまっていて見にくいと思うが…
「単位はmS/y かつ センサをぶった切った状態の値をそのまま表示している模様…(汗)」
なんかここいら辺の脇?が甘いよなぁ…と思いつつ館内をさらに見学。(一応センサ部分のアップを。外部に設置される物なのでセンサを温めるヒーターがあって、その温風?を循環させるファンがある模様。3施設全てにモニタリングポストの展示があったが、メーカーは全てALOKA製だった。これは独占というより、過去に渡って真面目にこの手の物を作ってきたメーカーがここだったと言うだけな気がするな。)
こちらは身近な物が放射線を出している事を紹介する展示。クリスタルガラス・ウラン鉱石・ワカメ・煙探知機・花崗岩が並んでいて、レバーを廻すとサーベイメータのアナログメーターの針が動きます。
ウラン鉱石は別格として、煙探知機の反応具合が大きい事に驚いた。放射線が怖い方々は家庭用火災報知器を付けない方がいいのかもしれない。個人的には「火災のリスク>>その機器が発する放射線のリスク」な気がするけれども。
そうそう、俺は放射線を浴びるリスクについてはあんまり重大に考えていない。なぜならそんな物とは比較にならない程の危険度を誇るバイクに乗っている人間だから。
こちらはウラン鉱石が発する放射線を何で遮蔽できるのかをサーベイメータで実際に確認できる展示。遮蔽物としては、紙・木・鉛・コンクリートだったかがあって、さすがに鉛は素晴らしい遮蔽度を誇っていた。ま、鉛自体が人体に有害な物質の一つではあるんだけれども…(汗)
こちらは低レベル放射性廃棄物を保管するドラム缶のカットモデル。これは今後防護服とかの大量消費もあって急激に増えそうだ。保管先の確保は出来ているんだろうか?
ここ東海第二原子力発電所だけでなく、全国の原子力発電所のキーテクノロジーになるんでは?と個人的に勝手に思っているのがこちら「使用済燃料乾式貯蔵建屋」。途中でも触れたジルコニウム合金で覆われた燃料集合体は、仮にそれが使用済みであろうと温度が上がると危機的状況を迎えてしまう。通常の原子炉等では燃料プールと呼ばれる水(減速材)で満たされた空間に燃料集合体を詰め込んでいる訳だが、この保管の仕方が地震大国の我らが日本では危険だという事は福島第二原発の4号機で実証されそうになった。
水を減速材として使い、尚かつ水を冷却剤として使っている現状は正直…技術屋的にどうなんだ?と感じる。
水を失うと臨界を迎えてしまうかもしれない密度で燃料棒を保管し、その冷却方法としては水しかないという事に対する門外漢な俺なりの無力感。
「キャスク」と呼ばれている燃料棒の乾式保存装置の模型がこちら。崩壊熱を長期間発する燃料集合体を格納し、空冷(実際にどの程度の冷却が必要なのかは良く分からんが…)で一時保管を可能にしている。
自分の子供の将来を考えて「反原発」やら「脱原発」をやるのはいいが、俺個人としてはもっと「短期的」な視点で物事を考えて欲しいと思う。仮に原子力発電所の運転が止まったとしても、その危険性自体は恐らく技術的にはほとんど変わっていない。止めた原発が危険から脱却するのには10年単位の時間が必要だし、今から急に日本中が廃炉ラッシュになったとしても、その実現は人員確保的に程遠い。
愛する子供達を守りたいあなた方が主張すべきは、もっと「短期的」な発想であるべきではないですか?そうでないとあなたの愛する子供達の将来には恐らく間に合わないよ。
…そんな脳内青年の主張を繰り広げながら、片隅にあった「棒を倒していくフーコーの振り子」に癒されるおっさんなのでありました。
そうだよこれこれ!昔は上野の科学技術館のフーコーの振り子もこれと同じ仕組みだったんだよ!地球の自転エネルギーを利用している凄いやつ!
そんな訳で次の見学場所「原子力科学館」へ雨の中バイクで移動開始…